日本において、建設業は企業数が40万社を超える、極めて大きな業界となっており、うち99.9%は中小企業で構成されています。
日本の高度経済成長を担った重要な業界が建設業であったことは間違いないと思います。
そのような建設業において、ご相談を頂くテーマとして、ベテラン依存からの脱却と、生産性の向上を非常に多く頂いております。
背景として、日本においては、今後、新設住宅着工件数が減少することが見込まれていますが、それでも人材は不足トレンドにあります。
ベテランの頑張りで支えられている業界において、ベテランから若手への技術継承は重要なテーマとなっています。
また、昨今では働き方についても大きな変革を求められており、前述した人材不足と相成り、生産性向上も大きな課題となっています。
ベテラン依存から脱却するには、人から人への単なる技術継承では根本的な対策とはなり得ません。
ノウハウを継承された人が新たなベテランとして存在するだけであれば、結局のところ、リスクの高い経営からは脱却しているとは言えず、ベテランのノウハウを形式知として、誰でも扱えるようになってこそ「ベテラン依存から脱却したリスクの低い運営体制」と言えるでしょう。
また、生産性向上においても、単なる技術修練による生産性向上は結局のところ人的ノウハウであり、ベテラン依存の状況と変わりありません。
そもそもの業務プロセスを見直し、最適解となる「あるべき業務プロセス」を実現することが本当の意味での生産性向上となります。
現在、建設業においては大手ゼネコンが中心となり、デジタル・トランスフォーメーションが積極的に進んでいます。
背景には、国土交通省などの省庁が後押しをしていること、製造業と比較してデジタル化が若干遅れていたこと、そして何より建設業とデジタル・トランスフォーメーションは相性が非常に良く、導入効果が高いことなどが背景にあります。
この流れが、中小企業にも波及し、小規模人数で組織されている企業もデジタル・トランスフォーメーションを進め、成功を収めている企業も出てきています。
今後は企業として収益性の良化、対応件数の増加などに繋がる生産性の向上を実現し、その実現が属人化しない(ベテランに依存しない)ことを成し得た企業が他社差別化を実現し、将来的には市場で生き残る要件となるでしょう。
従業員数25名(ご相談を頂いた当時)の株式会社S社様は、木造建築の施工・施工管理をメインとした企業であり、自社で施工と施工管理を完結できるために、他社より総費用を抑え、かつ丁寧な仕事を実施することで依頼主より高い評価を得ていました。
そんな中、ベテランの方の高齢化と、若手社員のノウハウ獲得の遅さに悩まれており、事業運営リスクが高い状況からの脱却を目指したいと、ご相談を頂きました。
建築における施工というのは、設計図面を読み解き、必要部材を組み上げ、部材の加工をその場で実施するなど、実は多岐にわたる技能が必要となっています。
S社様では、通常、複数の案件を同時並行的に実施することで収益をあげており、各現場にベテランの方を1名以上配置することで事業が成り立っている状況でした。しかし、案件の状況によっては、ベテランの方が2案件以上を同時に掛け持ちせざるを得ない状況であったり、急な休みが必要となる場合には、ベテラン不在のなかで現場が対応できない状況に陥るなど、非常にリスクの高い事業運営となっていました。
さらに、S社様では現場での施工状況や検査内容などを写真やExcelなどに残し、施工履歴をしっかりと残していました。
そのような施工履歴を残すことは非常に重要なことではありますが、図面に該当する箇所の写真と検査内容の整理などを手入力で実施する必要があり、この整理に極めて大きな工数が必要となっていました。しかも、その対応を貴重なベテランが実施せざるを得ない状況だったのです。
本来、S社様が業務において付加価値を与えるべき部分は主に施工そのものの部分であり、整理そのものは価値を生み出しません。
S社様の課題認識としてはベテラン依存からの脱却ではありましたが、上記のような状況から生産性向上も大きな課題であると我々は判断し、お客様と協議のうえ、まず生産性向上による収益性向上を実施したうえで、徐々にベテラン依存からの脱却を図り事業運営リスクを低下していくことにしました。
具体的な取り組みとして、ベテランによる遠隔での現場作業支援と施工履歴保存の効率化を同時に実施をしました。
思い切って、ベテランの方を一人、本社に残したまま、各拠点を遠隔支援する体制に切り替えたのです。
これはS社様にとっても大きな決断でもあり、大きな挑戦でもありました。
現場ではベテランの方にしか判断できない場合、ウェアラブルデバイスを通して現場の方が見ている状況を共有し、また、会話ができるようにしました。それにより、ベテランの方が本社にいながら、臨場感をもって現場の状況を認識し、複数現場での現場判断ができるようになったのです。
さらに重要なこととして、図面をデジタル化し、ベテランの方により、図面上のどの箇所を写真に収め、どのようなチェックをすべきかをデジタル化された図面に表示をできるようにしました。さらに、現場側では書き込まれた指示内容などを即時に現場のタブレット端末で確認することができ、撮影した写真やチェック結果をデジタル化された図面上に残せるようにしました。
つまり、ベテランの方が行っていた現場での確認業務を現場の若手社員が実施できるようになり、施工履歴の整理・保存に費やしていた時間を大幅に削減することを両立したのです。若手社員としても、現場でのベテラン業務の一部を実施することで、業務に対する意識の高まったとの話も頂きました。
さらに、S社様においては施工履歴が完全にデジタル化されたことを活用し、施工履歴の一部をお施主様にも共有するサービスを始めました。思い切ったサービス展開ですが、これは、非常に好評を博すとともに、更なる企業の信頼性向上にもつながっています。
このように、業務プロセスを抜本的に改革することは経営数字にも非常に大きな効果として現れます。
実際に、S社様においては生産性向上による受注可能数の増加だけではなく、見積を高くしても安定した受注が実現できるようになり始めています。つまり、生産性向上によってコスト削減をしつつ、単価を上げているので利益として大きく改善されるのです。
上記の取り組みだけであっても、各現場に存在していた従来のベテランの方々の総工数が大いに削減できたことは、生産性向上による収益性の向上のみならず、ベテラン依存に対しても依存度合いを減らした効果はありました。
しかしながら、本社からの指示などはやはりベテランが実施している状況であるため、完全にベテラン依存から脱却したとは言えないでしょう。
このベテラン依存からの脱却に対しては、現在、ベテランの方が判断・指示している内容についてデータを蓄積しており、このデータを基に作業の標準化、ゆくゆくはウェアラブルデバイス等を通して、現場への指示が自動実行されるソリューションを検討しています。
このベテランの判断などのノウハウは、木造建築には木造建築の、鉄筋工事には鉄筋工事のノウハウがあり、しかも厳密には企業の数だけ違いがあります。
そうした企業ごとのノウハウは一種の差別化ポイントでもあり、そのノウハウを自社の誰でも使えるようにシステム構築していくことが非常に重要となります。
建設業に携わる方においては、スマートホームという言葉を聞いたことがある方も多いかと思います。
建築や不動産は人々にとって必要不可欠な「住」を担う重要な業界であり、政府が掲げるSociety5.0を担う重要な要素となります。
当然、官庁からの需要も高まることになりますが、何より一般消費者が「ネットで繋がり、快適な世界」を体験しつつある今、新たな技術を取り入れた消費者のニーズに合うサービスを提供することは今後、もはや必須要件となる時代が来るでしょう。
生体認証での入室、音声での住宅設備稼働、遠隔地からの自宅状況確認など、すでに我々も関与したプロジェクトにおいて、スマートホームを一つの差別化として進めている中小企業様もおられます。
そのようなスマートホームの潮流に乗りながらも、自社で進める差別化ポイントを明確にすることが今後は重要となるとアスナビスは確信しています。
アスナビスでは、システムそのものを販売する会社ではなく、各社様に合わせた最適解となるソリューションをお客様と共に構築してまいります。