中小企業の企業数として多く日本に存在している業種のひとつが小売業であり、中小企業数は50万社を超えています(※1)
しかしながら、小売業という業種においては、他の建設業、宿泊業といった業種より、かなり個社ごとに色合いの違う、幅広いビジネスモデルが存在していることが大きな特徴となります。つまりは、小売業と一括りにしても、顧客に提供するサービスがそれぞれに大きく異なります。
これは、時代と共に顧客が求めるモノと求める場所が多様化してきたことを明確に表しています。
そんな十人十色の業界においての近年を語るうえでは、コロナ禍の影響は避けては通れない話題だと思います。
幅広いビジネスモデルの小売業においても、基本的に対面を前提としたビジネスモデルを構築している企業が多く、特に中小企業においては影響が甚大であることが、既に売上高の減少、倒産数の増加などからもハッキリ見て取れると思います。
しかし、そのなかでコロナリスクが表面化した矢先に一時的に売り上げが減少しても、コロナウイルスによる変化を逆手に取り、売り上げの増加、店舗の増加に転じている企業も数多く存在しているのも事実です。
つまりは、顧客が求めるものに応じることが出来た企業は自社の成長に繋げ、出来なかった企業が淘汰される厳しい現実を表しています。
さらに、コロナウイルスの影響以外に目を向けてみると、顧客の求めるものが「モノ(物)」そのものではなく、「コト(経験)」に変遷していることも大きく影響しています。
ツイッター、インスタグラムなどのソーシャルメディアが広く普及したことにより、消費者自身が経験を発信する力を持ち始め、消費者が求めるものが機能的な充足だけではなく、感動や共感といった、精神的な充足も重きを置いた製品・サービスの選択をするようになりました。
これはコロナがリスクとして出現する前より、顕著に表れている消費者意識の変遷で、いわゆる「マーケティング3.0」の時代と呼ばれます。
今や誰もが知る中国の巨大企業アリババの創業者ジャック・マー氏は「店舗とEC(ネット販売)の融合した”新小売”という業態が生き残る」と発言をしたことも注目されました。
このように、小売業は今まさに、時代の大きな節目に差し掛かっており、従来のビジネスモデルを革新する必要性が極めて高い業種といえるでしょう。
前述したように、小売業においては企業の存続・成長のために従来のビジネスモデルを革新する必要性に迫られており、
その有効な課題解決の方法がデジタル・トランスフォーメーションによるビジネスの革新になります。
中小企業における小売業のお客様はその必要性を実感として、強く認識されている方が多く、
実際、私たちのサービスに対するお問合せについても、小売業のお客様からのお問い合わせは日に日に増している状況です。
では、小売業におけるデジタル・トランスフォーメーションにはどのようなものがあるでしょうか?
今回は実際に、私たちアスナビスのコンサルタントが着手した事例について紹介させていただきます。
とある服飾やアクセサリー商品をメインとして店頭販売しておられる、セレクトショップを経営する中小企業のお客様より、
まさにコロナウイルスが猛威を振るい始めた20年の春先、デジタル・トランスフォーメーション推進についてご相談を頂きました。
ご相談を頂いた当時のお客様の規模としては、当時は従業員数20名、店舗数4店舗を展開しておられ、
コロナウイルスが猛威をふるうより以前から、売り上げ、利益ともに減少傾向にありました。
そのなかでコロナウイルスにより、常連のお客様さえ遠のく、経営的に極めて危機的状況のなかでご相談を頂きました。
ご相談を頂いたお客様はすでにTwitter、FacebookといったSNSを活用し、商品のプロモーションは実施していましたが、
ネット上での販売(ECサイト運営)はしておらず、お客様自身では現状を打破するために顧客の購買機会を増やすECサイト構築が重要だと考えておられました。
結論を先に申し上げると、ECサイトの構築・運営ということが今回の事例において、大きく成果を挙げることになりました。
ただし、当初、お客様が考えておられた「ECサイト」とは全く別の「個々のお客様と情報を交換し、ネット上で購買行動もできるサイト」を構築したことが大きな成功要因であったと思います。
お客様の顧客へのヒアリングなどを重ねたところ、顧客が求めているのは大きく下記のような役割を果たすサイトでした。
●購買検討に値する商品の有無が分かる
●非対面でありながら、商品について確認したい情報を即時に教えてもらえる(自分のサイズに合うものがどれか、素材感など)
●店舗の混雑状況が分かる
●ネットで見た商品をリアル店舗でスピーディに試着できるようにしたい(試着内容・時間の指定)
つまり、お客様の顧客はネットで購買行動が完結するECサイトをさほど必要としていないことが分かり、「自分の嗜好に合う服飾・アクセサリーを情報表示してくれて、それをリアル店舗でスムーズに確認できる仕組み」を主に欲していることが分かりました。
パターン化された服飾、下着などを購入したいと考える消費者はネットで完結する仕組みを欲しがるかもしれません。
しかし、お客様の主な顧客は、ネットで自分に有用な情報を取得し、コロナウイルスのリスクを最低限に抑えつつ、あくまで店頭で実物を確認することを重視する方がメインであるということが分かったのです。
これは、ネットにおける販売機能を果たすだけのECサイトでは、顧客の満足度を十分に得られないことを示しており、顧客は服飾というモノだけでなく、服飾を買うまでのプロセス(経験)にも価値を求めているのです。
このように、「世間が求めるもの」ではなく、「自社のお客様」が求めるモノ・コト(経験)を突き詰めて、最適な仕組みを構築することが重要であり、それこそが、真のデジタル変革(デジタル・トランスフォーメーション)であるとアスナビスは考えています。
ECサイト構築において見られがちなのですが、顧客が見る部分をデザイン良く作りこんでも、その裏で運用が非常に煩雑になっているサイトや、入手できる情報を有効活用できていない事例が多々あります。
このようなサイトは、構築当初から「運用のあるべき姿」を考えていなかったことがほとんどです。システムベンダーに構築を丸投げし、運用後に後悔する方は非常に多いと思います。もしくは、運用の煩雑さが普通だと認識してしまっている方もいるかもしれません。
基本的に、サイト構築後に運用の最適化に取り組む場合、システムの改修に大きな費用がかさんでしまうことが多くあります。
今回のお客様においては、従業員数が少ないことから、サイト運用において極力、人手をかけずに運用でき、かつ、有用な情報は新たなビジネス創造につながる仕組みを構築することは必須要件であると、我々は考えました。
そこで、顧客側から目に見えるサイトの表側だけでなく、裏側のシステムにも様々な仕組みを取り入れています。
例えば、その一部がECサイトでの顧客情報分析を自動実行するRPAのシナリオ開発・導入となります。
RPAとはRobotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)の略称で、データの整理・データの分析・分析結果をユーザーが見やすいように提示するなど、従来、人が手動で対応していた業務を自動実行できるシステムです。
このように、ECサイトの立ち上げと同時に、業務効率化まで考慮したシステムを構築することで、後戻りがなく、最小費用で最大限効果を実現するシステムを構築できるのです。
本プロジェクトの重要な点としては、「あるべき姿」を顧客視点のみならず、業務視点でも実現している点にあります。
この視点はとても重要なことであり、はじめから双方を考慮したシステム構築のため、後からの改修費用がかからずゼロベースで構築できる点にいて費用を最小限にとどめることができます。
もちろん、「あるべき姿」を追求しているため、効果も最大限に発揮できます。
具体的な本システムの導入効果としては主に下記のような効果が見られています
・顧客生涯価値の大幅な向上(顧客定着率の向上、新規商材購入頻度の向上)
・新規顧客の獲得(ECサイトからの新規獲得、サイトからのリアル店舗訪問による新規獲得)
・顧客のサイト訪問とリアル店舗訪問の因果関係分析による、より効果的な商材投入
・革新的なシステム運用についての取材等による、企業広告効果
・徹底的な運用工数削減の仕組みを投入することによる、利益最大化
本プロジェクトにおいては、店内の混雑状況の把握、顧客ひとりひとりへの適切な商材リコメンドなどにおいてAIを活用し、業務効率化を最大限に発揮するためにRPAといった技術を活用していますが、重要なことは技術ありきではなく、あくまでビジネスとして「あるべき姿」を追求し、その結果、AI・RPAといった先端技術を活用していることにあります。
私たちアスナビスは、お客様のビジネス×先端技術による企業の成長を応援いたします。
【出典】
※1 中小企業庁「産業別中小企業数」https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chu_kigyocnt/181130kigyou3.pdf